■ 勤 行 勤行とは、「勤(つと)めて善法を行うこと」を意味し、時を定めて、仏前で読経・礼拝(らいはい)することをいいます。 日蓮正宗の勤行においては、御本尊に向かって、法華経の『方便品第二』と『寿量品第十六』を読誦し、「南無妙法蓮華経」の題目を唱えます。 勤行では、仏法僧の三宝への報恩謝徳、広宣流布と諸願の成就、先祖の追善供養などを朝に五座、夕に三座を勤めます。大聖人は、 「朝々仏と共に起き、夕々(せきせき)仏と共に臥(ふ)す」(御義口伝 新編一七四九) と示され、一日の生活を仏とともに送ることを教えられているように、朝夕の勤行はたゆまず実践することが大事です。 朝夕の勤行こそ信心修行の根本であり、御本尊の広大無辺の功徳を受け、成仏という真の幸福境界(きょうがい)を得る源泉なのです。 正行と助行 勤行には、正行(しょうぎょう)と助行(じょぎょう)の義がそなわっています。 正行とは、南無妙法蓮華経の題目を唱えることで、助行とは、法華経の方便品と寿量品を読誦することをいいます。この両品を読誦する理由について大聖人は、 「殊(こと)に二十八品の中に勝れてめでたきは方便品と寿量品にて侍(はべ)り。余品は皆枝葉にて候なり。されば常の御所作には、方便品の長行(ちょうごう)と寿量品の長行とを習ひ読ませ給ひ候へ(中略)寿量品・方便品を読み候へば、自然(じねん)に余品はよみ候はねども備はり候なり」〈月水(がっすい)御書 三〇三〉 と仰せられ、法華経の中でも特に迹門方便品と本門寿量品が勝れた意義と功徳を有していることを教示されています。 また正行と助行の関係について、第二十六世日寛(にちかん)上人は、 「助行とは、方便寿量の両品を読誦し、正行甚深(じんじん)の功徳を助顕(じょけん)す。誓えば灰汁(かいじゅう)の清水を助け、塩酢(えんそ)の米麺(べいめん)の味を助くるが如し。故に助行と言うなり」〈当流(とうりゅう)行事抄 六巻抄一六一〉 と示されています。すなわち、助行は正行の題目の甚深の意義と功徳を助け顕すために読誦するのです。 したがって、正行たる題目を離れでは助行の読誦の意義はなく、助行を用いない唱題のみも、正式な勤行とはなりません。勤行は正行・助行ともに合わせて実践することが大事です。 勤行の心構え 勤行は、御本尊をはじめとする三宝(さんぽう)に報恩感謝申し上げるとともに、祈念と回向(えこう)を行ずるものですから、敬虔(けいけん)な気持ちをもって臨(のぞ)むことが大切です。 御本尊に向かうときは、姿勢を正して胸の前で合掌(がっしょう)し、御本尊の中央の「南無妙法蓮華経・日蓮」の御文字を拝しますが、その中で「妙」の御文字を基本とします。読経は正確に行い、題目は明瞭(めいりょう)な口調で唱えます。 一日のはじめである朝の勤行は、御本尊の功徳に浴(よく)して意義ある一日となるよう念じ、夕の勤行においては、御本尊に加護されたことへの感謝の心をもって行います。 勤行は月々日々、持続していくことが肝要であり、そこに成仏の境界も築かれていくのです。大聖人は、 「受くるはやすく、持(たも)つはかたし。さる間成仏は持つにあり」(四条金吾殿御返事 新編七七五) と教示されています。 五座の意味 総本山大石寺(たいせきじ)においては、御開山日興上人以来、歴代の御法主上人の大導師により、一日も欠かすことなく丑寅(うしとら)〈午前二時〜四時〉の刻(こく)に勤行が行われ、宗祖大聖人の御遺命(ごゆいめい)である広宣流布を御祈念されています。 丑寅勤行は当初、天壇(てんだん)〈諸天供養を行うところ〉・本堂・御影堂(みえいどう)・客殿(きゃくでん)・墓所(むしょ)において読経・唱題が行われていましたが、江戸時代の初期より、客殿一カ所において、五座の形式をもって行われるようになり、現在に至っています。 初 座 諸天供養(方便品・自我偈・引き題目) 初座(しょざ)では、東方に向かい読経をします。古来、「東方は諸方のはじめ」といわれるように、一日のはじめにあたり、大日天王(だいにってんのう)〈太陽〉を代表とする諸天善神に対し、「南無妙法蓮華経」の法味(ほうみ)を捧(ささ)げる意義から東方に向かいます。法華経『安楽行品第十四』には、 「諸天(しょてん)昼夜に、常に法の為の故に、而(しか)も之(これ)を衛護(えいご)し」(開結三九六) とあり、諸天善神は正しい仏法を護持弘通する法華経の行者を、昼夜にわたり守護することが説かれています。 二 座 本尊供養(方便品・寿量品長行・自我偈・引き題目) 二座では、久遠元初(くおんがんじょ)の自受用報身(じじゅゆうほうしん)如来(本仏)の当体であり、事の一念三千(本法)の法体(ほったい)である独一本門戒壇(かいだん)の大御本尊を讃歎(さんだん)し、さらにその威光(いこう)が倍増し利益の広大であることを願い、御報恩謝徳申し上げます。 三 座 三師供養(方便品・自我偈・引き題目) 三座では、末法の御本仏である宗祖日蓮大聖人、唯授一人(ゆいじゅいちにん)血脈付法(けちみゃくふほう)の大導師である第二祖日興(にっこう)上人、一閻浮提(いちえんぶだい)の座主(ざす)である第三祖日目(にちもく)上人、以下、伝法所持の第四世日道(にちどう)上人、第五世日行(にちぎょう)上人等の歴代法主上人の御徳に対して、御報恩謝徳申し上げます。 四 座 広宣流布祈念その他の祈念(方便品・自我偈・引き題目) 四座では、広宣流布の大願成就を祈念申し上げ、続いて自身の信心倍増、過去世からの謗法罪障(ほうぼうざいしょう)の消滅、さらに現当二世(現在世と未来世)にわたる所願成就の祈念をします。 五 座 回向(方便品・自我偈・唱題) 五座では、読経・唱題の後、先祖並びに有縁の精霊(しょうりょう)への追善回向(えこう)をします。回向とは「回転趣向(えてんしゅこう)」の義で、自ら積んだ功徳を他へ回(めぐ)り向かわしめ、自他ともに仏果(ぶっか)の成就を目指すことです。 最後に勤行の結びとして、「法界(ほうかい)のすべてが平等に南無妙法蓮華経の功徳に浴し、自他倶(とも)に安穏(あんのん)にして寂光土に帰する」ことを祈念します。 唱 題 唱題は、本門の本尊を信じて南無妙法蓮華経の題目を唱えることで、一切の修行の根幹となるものです。この題目の五字七字は、とりもなおさず御本尊中央の主題であり、大聖人が、 「口に妙法をよび奉(たてまつ)れば我が身の仏性もよばれて必ず顕はれ給ふ」(法華初心成仏抄 新編一三二一) と仰せられているように、正境(しょうきょう)たる御本尊に向かい唱題をすることによって、自身の仏となる種である仏性が開き、成仏することのできる道理を示されています。 大聖人は唱題の功徳について、 「南無妙法蓮華経とだにも唱へ奉らば滅せぬ罪や有るべき、来たらぬ福(さいわい)や有るべき。真実なり甚深(じんじん)なり,是れを信受すべし」〈聖愚(しょうぐ)問答抄 新編四〇六〉 と説かれ、過去世からのすべての罪障を消滅するとともに、最高の幸福境界を得ることができると教示されています。さらに、 「末法に入って今(いま)日蓮が唱ふる所の題目は前代に異(こと)なり、自行化他に亘(わた)りて南無妙法蓮華経なり」(三大秘法抄禀承事 新編一五九四)) と仰せられているように、日蓮大聖人の仏法において唱える題目は、自分自身の福徳を成就するばかりではなく、他の人々を折伏教化し利益する功徳をもそなえているのです。 したがって、勤行時以外においても、より多く唱題することが大切であり、折伏や諸願の成就なども唱題の功徳によって叶(かな)えられるのです。 |