目連の神通力
 
 外道の師と弟子五百人が呪(まじな)いを用いて山を移そうとすると、一カ月目に山が激しく揺れ動いた。これを目撃した目連は山が移れば被害が多く出ると思い、山の頂の虚空(こくう)中に結跏(けっか)した。すると山は動かなくなった。外道は我が法に依(よ)れば山は動く、日が経(た)てば必ず移ると思って待っていたが、どうしても山は動かず元のままであった。これはきっと沙門(しゃもん)の力によるものであると思い、自らの非力を悟り、仏道に帰依し、これまでの多くの弟子を出家させたのであった。
 また、難陀、跋難陀(ばつなんだ)の竜の兄弟が須弥山(しゅみせん)の辺海にいると、常に仏は空を飛びトウ利天宮(とうりてんぐう)に昇った。この竜が恨(うら)んで「どうして禿人(とくにん)は我が上を通るのか」と呟(つぶや)いた。のちに仏が天に昇ろうとすると、竜は黒雲と闇霧を吐いて光を遮(さえぎ)ってしまった。多くの比丘がこれをこらしめようとしたが仏は許さなかった。目連は「私が竜をこらしめます」と言った。
 竜はその身で須弥山を廻(めぐ)ること七匝(そう)、尾は海水にはね、頭は山頂を枕とした。目連はそれに倍して身を現じ、山を廻ること十四匝、尾は海外に出、頭は梵宮を枕とした。竜は激怒して金剛の砂を雨(ふ)らすと、目連は砂を宝華に変じ、それは軽やかに美しかった。
 竜はなおも怒りを止めなかったので、目連は化して細身となり竜の体内に入った。眼より入って耳に出、耳より入って鼻に出、竜の身を錐(きり)をもみ噛(か)むと、あまりの痛さに降参してしまった。
 目連は巨細の身を改め、沙門の姿にもどり、二匹の竜を率いて仏所に至ったのであった。
 
これは『文句』に記されていて、目連の神通第一を示したものである。
     (歴代法主全書四巻一八八)