導師を殺して道を失った商人
 
 大昔、商人達がいて海を渡って大きな商売をしようと思っていた。しかし海を渡るにはどうしても導師(道の案内者)が必要であり、これを見つけることが何よりも先決であった。
 商人達はようやく導師を見つけることができたので、導師を引き連れて出発すると、やがて広野の中に至った。広野の中にはバラモン教の神様(天祠)がいて「人間一人を神に捧げなければここを通すことはできない。捧げれば通してやろう」と言うのであった。
 そこで多くの商人達は因ってしまい、よくよく考えて「我々は皆親族であり、誰も殺すことはできない。ただこの導師は親族でもないので神に捧げることにしよう」と相談して決めた。導師は直ちに商人達の手によって殺され、祠(まつ)られてしまった。
 しかし、祠り終わってみると、商人達は行くべき道を失ってしまい、窮困して全員が死んでしまったのである。

 これは百喩経に説かれていて、日寛上人は 「他宗他門は真の導師を失っているから信心の目的である成仏の境地に至ることはできない」と批判し、さらに「当門流は寿量文底の大海に入り下種の大法を得た。そしてそれを我等に授与する宗祖大聖人のみが末法の大導師である」と仰せである。
(歴代法主全書六巻)
            (高橋粛道)