平成21年2月1日付
日蓮正宗の基本を学ぼう
 『立正安国論』を拝す
 @奏呈の経緯
松葉ケ谷の草庵での弘通の日々
 宗祖日蓮大聖人は、建長五(一二五三)年四月二十八日の立宗の後、鎌倉に入って名越の松葉ケ谷に草庵を結ばれます。そして、鎌倉の辻に一人立たれ、念仏無間、禅天魔等と師子吼を挙げられ、末法適時の南無妙法蓮華経の大法弘通を始められました。
 当時の鎌倉では、禅宗の建長寺と真言律宗の極楽寺が、人々の信仰を集めていました(真言律宗とは、律宗の教義に真言と念仏を混合させた一派)。そのため、大聖人の辻説法を聞いた人々は、
「耳をふさぎ、眼をいからかし、口をひそめ、手をにぎり、はをかみ(中略)かたきとなる」(御書一四三二n)
あり様でした。
 しかし、やがて孤軍奮闘の法戦を続ける大聖人のもとに、日昭と日朗が入門し、また草庵を訪れ入信する者が増えていったのです。

打ち続く天災と暗い不安な日々
 『安国論御勘由来』には、
「正嘉元年太歳丁巳八月二十三日戌亥の時、前代に超えたる大地振。同二年戊午八月一日大風。同三年己未大飢饉。正元元年己未大疫病。同二年庚申四季に亘りて大疫已まず。万民既に大半に超えて死を招き了んぬ。而る間国主之に驚き、内外典に仰せ付けて種々の御祈祷有り。爾りと雖も一分の験も無く、還りて飢疫等を増長す。」(同 三六七n)
と、『立正安国論』執筆の理由が、@度重なる天災によって多くの人が亡くなり、A国主は種々の祈祷を指示したが効果がなく、飢饉疫病が猛威を振るったことにあると仰せられています。
 当時の主な災難を挙げると、
建長五年六月十日
 鎌倉大地震
建長六年一月十日
 鎌倉大火
康元元(一二五六)年八月六日
 鎌倉大風・洪水・疫病
正嘉元(一二五七)年八月一日
 鎌倉大地震(正嘉元年は複数
回の大地震が鎌倉を襲った)
正嘉二年八月一日
  諸国大風雨、田園損亡
正元元(一二五九)年春
 大飢饉、大疫病
などです。人々は怯えきった暗い不安の日々を余儀なくされ、亡くなった人の遺体は道にあふれて世情は荒廃し、夜討ち・強盗が横行したのでした。

一切経の閲覧
 大聖人は、世のこうした状況の根本原因を経証に求めるべく岩本実相寺(現富士市)の一切経蔵に入り、経典をひもとかれました。そして、『御勘由来』に、
「日蓮世間の体を見て粗一切経を勘ふるに、御祈請験無く還りて凶悪を増長するの由、道理文証之を得了んぬ」(同)
と示されるように、人々の極苦を見て、正法を世に立てる「時」の当来を知られたのです。
 即ち、頻発する災難の由来は、一に国に大謗法が充満することによるのであり、二に末法に仏のごとき聖人の出現と大白法の興起を示す瑞相であったと言えます。
 次々と経典を開かれた大聖人は、これら災難興起の道理と証文を得られたのです。
 なお、この頃、まだ若い日興上人が大聖人に入門し、常随給仕をして陰に陽にお仕えしました。

『立正安国論』御執筆
 さて、『御勘由来』に、「終に止むこと無く勘文一通を造り作し其の名を立正安国論と号す。文応元年庚申七月十六日辰時、屋戸野入道に付し故最明寺入道殿に奏進し了んぬ」(同)
と仰せのように、鎌倉に戻られた大聖人は、一通の勘文を作られ、『立正安国諭』と名づけられたのです。
 このとき、大聖人は儒学者である比企大学三郎に校訂を依頼されたといわれ、難解な諌暁書をよく公延に判らしめ、幕府が受け入れやすいように尽力されました。第五十六世日応上人は、『立正安国論秘記』に、これを「諌道の善巧」と称されています。
 こうして完成した『立正安国論』は、客の問いに主人が答え、客を次第に正法へ導く内容となっています。
 日寛上人の文段に従って、内容を示すと、
 第一問答は災難の原因を明かし、
 第二問答は災難証拠の経文を
 第三問答は謗法によって国が亡ぶことを示し、
 第四問答は正しく元凶を明かし、
 第五問答は倭漢の例を出して亡国を示し、
 第六問答は念仏禁止の勘状を論じ、
 第七問答は謗法を断つべきことを示し、
 第八問答は謗法を断つには布施を止めることであると論じ、
 第九問答は客の疑いが晴れて信を生じ、
 第十問は正法に帰依して謗法対治を誓う
となり、最後の問いで、客は正法に帰依して、自らも他の謗法の人々を折伏することを誓っています。

文応元年七月十六日
 文応元(一二六〇)年七月十六日午前八時頃、大聖人は寺社を管轄していた宿屋入道に託して、国主諌暁の書『立正安国論』を最明寺入道時頼に奏進されたのです。
 このとき、大聖人は、
 「禅宗と念仏宗とを失ひ給ふべし」(同 八六七n)
と、わざわざ言いつけられ、災難の元凶を断つよう念言されました。
 このように『立正安国論』は、人々の不安と苦しみを救うため、御本仏の大慈大悲の御振る舞いとして著されたのです。
 しかし、幕府の用いるところとはならず、松葉ケ谷の法難に続いていくのです。
   ◇    ◇
 昨今の世界の出来事を見ると、猛威を振るう巨大ハリケーンやサイクロン、各地で起きる大地震による災害、また流行が懸念される人感染型鳥インフルエンザや新型インフルエンザ等の病気、世界経済の大暴落などが起きています。
 これらは正しく『立正安国論』で指摘された三災七難の様相と言えます。
 私たちは、この「時」に当たって、『立正安国論』の御精神に基づき、南無妙法蓮華経の正法を世に立てるために折伏に励むことが大切です。