御法主日如上人御指南 
五月度広布唱題会の砌
平成二十八年五月一日 
於総本山客殿

 本日は、五月度の広布唱題会に当たり、皆様には多数の御参加、まことに御苦労さまでございます。
 さて、先般、大きな被害を及ぼした熊本地震もいまだ余震が止まず、余震の数は千回を越えたと言われており、多くの方々が不安を抱え、安閑としておれない厳しい状況のなかで過ごされていますが、一日も早い地震の沈静化と復興を心から願って止みません。
 かかる時に当たり、私どもは改めて『立正安国論』の御聖意を拝し、今、なすべきことは何かを見極め、実践躬行していかなければならないと思います。
 既に『立正安国論』には、今日の如き頻発する天変地夭等の惨状を見て、その原因は、世の中の人々が皆、正法に背き、悪法を信じていることにより、国土万民を守護すべきところの諸天善神が所を去り、悪鬼・魔神が便りを得て住み着いているためであるとし、正法を信ぜず、悪法を信ずることによって、三災七難等の災難が起こると、仁王経、大集経、薬師経等を挙げてその理由を述べられております。そして、これら不幸と混乱と苦悩を招いている原因は、すべて謗法にあり、この謗法を対治して正善の妙法を立つる時、国中に並び起きるところの三災七難等の災難は消え失せ、安寧にして盤石なる仏国土が出現すると仰せられ、こうした災難を防ぎ、仏国土を建設するためには、一刻も早く謗法の念慮を断ち、
「実乗の一善に帰」(御書二五〇n)
するよう、諌められているのであります。
 「実乗の一善」とは、法華経本門寿量品文底独一本門の妙法蓮華経にして、三大秘法の随一、本門の本尊のことであります。
 すなわち、万民一同が謗法の念慮を断ち、三大秘法の大御本尊に帰依することが、国土を安んずる絶対不可欠な要件であると仰せられているのであります。
 しかしながら、世間の多くの人達は、こうした天変地夭等の混乱が何によって起きるのか、その原因が解らず、いたずらに喧噪を極めるばかりであります。
 もちろん、各専門分野において、それぞれが原因を究明し、解決のための方策が講じられていることは認めますが、しかし残念ながら、根本的な解決には至っていないのであります。
 大聖人様は『諸経と法華経と難易の事』に、
「仏法やうやく顛倒しければ世間も又濁乱せり。仏法は体のごとし、世間はかげのごとし。体曲がれば影なゝめなり」(同一四六九n)
と仰せであります。
 天変地夭をはじめ、悲惨な事件や事故、あるいは戦争や飢餓など、世の中が混乱する原因は、一にかかって仏法の乱れ、すなわち正法を信ぜず悪法を信じているが故であります。
 故に『頼基陳状』には、
「悪法世に弘まりて、人悪道に堕ち、国土滅すべしと見へ候」(同一一二九n)
と仰せであります。
 すなわち、悪法を信ずれば、まず人心が乱れます。その人心が乱れれば、国土世間にまで大きな影響を及ぼすことになるのであります。この仏法の原理が解らなければ、真の解決を図ることはできません。
 大聖人様は『瑞相御書』に、
「人の悦び多々なれば、天に吉瑞をあらはし、地に帝釈の動あり。人の悪心盛んなれば、天に凶変、地に凶夭出来す」(同九二〇n)
と仰せであります。
 この依正不二の原理は、凡夫の智慧をもっては到底、計り知ることのできないものであり、三世十方すなわち、無限の時間と空間を通覧せられて、宇宙法界の真理を悟られた仏様が明かされた知見であります。
 したがって、この依正不二の大原則を無視して、今日の如き混迷を極める惨状を救い、真の解決を図ることはできないのであります。
 すなわち、『立正安国論』の聖意に照らすならば、正報たる我ら衆生が一切の謗法を捨てて、実乗の一善たる三大秘法の随一、本門の本尊に帰依せば、その不可思議広大無辺なる妙法の力用によって、我ら衆生一人ひとりの生命が浄化されます。それが個から全体へ、衆生世間に及び、社会を浄化し、やがて依報たる国土世間をも変革し、仏国士と化していくのであります。
 反対に、我ら衆生の生命が悪法によって濁れば、その濁りが国中に充満し、依報たる国土の上に様々な変化を現じ、天変地夭となって現れてくるのであります。
 これが『立正安国論』に示された原理であり、この大聖人様の御聖意を体し、真の世界平和と仏国土実現を目指して、一切衆生救済の慈悲行たる折伏を行じていくのが、我ら本宗僧俗の大事な使命であります。
 されば、今こそ私どもは僧俗一致・異体同心して、来たるべき平成三十三年・宗祖日蓮大聖人御聖誕八百年、法華講員八十万人体勢構築の実現へ向けて、万難を排し、全力を傾注して折伏を行じ、力強く前進していかなければならないと思います。
 大聖人様は『如説修行抄』に、
「権実雑乱の時、法華経の御敵を責めずして山林に閉ぢ篭りて摂受の修行をせんは、豈法華経修行の時を失ふべき物怪にあらずや。されば末法今の時、法華経の折伏の修行をば誰か経文の如く行じ給へる。誰人にても坐せ、諸経は無得道堕地獄の根源、法華経独り成仏の法なりと音も惜しまずよばはり給ひて、諸宗の人法共に折伏して御覧ぜよ。」(同六七三n)
と仰せであります。
 「折伏躍進の年」に当たり、私どもは一人ひとりが、この御聖訓を心肝に染め、講中一丸となって折伏を行じ、もって全講中が必ず本年度の折伏誓願を達成されますよう心から念じ、本日の挨拶といたします。