御法主日如上人御指南 
御法主上人猊下お言葉
唱題行(1月31日)の砌  於 総本山客殿

 本日は、本年一月度の唱題行の最終日に当たり、皆様方にはたいへん御繁忙のところ、万障お繰り合わせて参加され、まことに御苦労さまでございます。
 さて『立正安国論』を拝しますと、
「広く衆経を披きたるに専ら謗法を重んず。悲しいかな、皆正法の門を出でて深く邪法の獄に入る。愚かなるかな各悪教の綱に懸かりて鎮に謗教の綱に纏はる。此の朦霧の迷ひ彼の盛焔の底に沈む。豈愁へざらんや、豈苦しまざらんや。汝早く信仰の寸心を改めて速やかに実乗の一善に帰せよ。然れば則ち三界は皆仏国なり、仏国其れ衰へんや。十方は悉く宝土なり、宝土何ぞ壊れんや。国に衰微無く土に破壊無くんば身は是安全にして、心は是禅定ならん。此の詞此の言信ずべく崇むべし。」(御書二五〇n)
と仰せであります。
 皆様も既に御承知の通り、ただいま拝読いたしました『立正安国論』は今を去る七百六十二年前、文応元(一二六〇)年七月十六日、宗祖日蓮大聖人御年三十九歳の時、宿屋左衛門入道を介して時の最高権力者・北条時頼に提出された、国主への諌暁書であります。
 すなわち『立正安国論』は、大聖人様が、日本国の上下万民が謗法の重科によって、今生には天変地夭・飢饉・疫癘をはじめ、自界坂逆難・他国侵逼等の重苦に責められ、未来には無間大城に堕ちて阿鼻の炎にむせぶことを悲嘆せられ、末法の御本仏としての大慈大悲をもって、北条時頼ならびに万民を御諫めあそばされたところの折伏諌暁書であります。そして、国家の治乱興亡を透視し、兼知し給う明鏡にして、過去・現在・未来の三世を照らして曇りなく、まさしく、「白楽天が楽府にも越へ、仏の未来記にもをとら」(同一〇五五n)
ざる書であります。
 しこうして、その期するところは仏国土実現であります。爾前迹門の謗法を捨てて「実乗の一善」すなわち、法華経本門寿量品文底独一本門の妙法蓮華経にして三大秘法の随一、本門の本尊に帰依することが最善の方途であると仰せられているのであります。
 しかるに、これに反して、いまだ多くの人々は、天変地夭・飢饉・疫癘あるいは戦争をはじめ、世の中の混乱と不幸と苦悩を招いている根本原因が、実は間違った教え、間違った思想、すなわち謗法の害毒にあることが解らず、特に今回のような新型コロナウイルス感染症と仏法との関係性については深く知るよしもなく、ただ不安を募らせ、喧噪を極めるばかりであります。
 大聖人様は『諸経と法華経と難易の事』に、
「仏法やうやく顛倒しければ世間も又濁乱せり。仏法は体のごとし、世間はかげのごとし。体曲がれば影なゝめなり」(同 一四六九n)
と仰せであります。
 すなわち、天変地夭や疫病を含め、世の中が混乱する原因は、一にかかって仏法を正しく理解できず、正法を誹謗し、悪法を信じているが故であると御教示あそばされているのであります。悪法を信ずれば、まず人心が乱れ、人心が乱れれば国土世間にまで大きな影響を及ぼすことになるのであります。
 故に、大聖人様は『瑞相御書』に、
「夫十方は依報なり、衆生は正報なり。依報は影のごとし、正報は体ごとし」(同 九一八n)
と仰せられているのであります。
 すなわち、仏法においては依正不二の原理が説かれておりまして、主体たる正報と、その依りどころたる依報とが一体不二の関係にあることを明かされているのであります。よって、正報たる我ら衆生のあらゆる用きがそのまま、依報たる国土世間へ大きく影響を及ぼしているのであります。
故に『瑞相御書』には、
「人の悦び多々なれば、天に吉瑞をあらはし、地に帝釈の動きあり。人の悪心盛んなれば、天に凶変、地に凶夭出来す」(同 九二〇n)
と仰せられているのであります。
 この依正不二の原理は、凡夫の知恵をもってしては到底、計り知ることのできない仏様の智慧であり、三世十方を通覧せられて明かされた、御本仏の透徹された絶対の知見であります。したがって、御本仏の絶対的知見によって明かされたこの依正不二の大原則を無視して、今日の如き混迷を極める惨状を救い、真の解決を図ることはできないのであります。
 すなわち『立正安国論』の正意に照らせば、正報たる我ら衆生が一切の謗法を捨てて、実乗の一善たる三大秘法の随一、本門の本尊に帰依するならば、その不可思議、広大無辺なる妙法の力用によって、我ら衆生一人ひとりの生命が浄化され、それが個から全体へ、衆生世間に及び、社会を浄化し、やがて依報たる国土世間をも変革して、仏国土と化していくのであります。
 反対に、我ら衆生の生命が悪法によって濁れば、その濁りが国中に充満して、依報たる国土の上に様々な変化を現じ、天変地夭となって現れるのであります。
 されば、大聖人様は『立正安国論』に、
「早く天下の静謐を思はゞ須く国中の謗法を断つべし」(同二四七n)
と御指南あそばされているのであります。
 邪義邪宗の間違った教えは、個人を無間大城に堕とすのみならず、一国をも世界をも地獄に堕とすことになるのであります。この邪義邪宗の謗法を対治し、塗炭の苦しみに喘ぐ多くの人々を救い、仏国土実現を果たしていく最善の方途こそ折伏であります。
 『立正安国論』の精神も、要は折伏を実践するところにあり、したがって「立正」の二字には破邪顕正の意義が存しているのであります。
 されば、今日の新型コロナウイルス感染症の蔓延を目の当たりにする時、今こそ我ら本宗僧俗は、一人でも多くの人々に妙法を下種し、もって全人類の幸せと全世界の平和を実現すべく、一天広布を目指して、たくましく前進していくことが最も肝要であろうと思います。
 本年度の宗門発行のポスターには「今こそ 折伏の時」と記されております。
 各位にはこの標語の如く、講中の総力を結集して折伏を行じ、もって身軽法重・死身弘法の御聖訓のままに、いよいよ自他共の成仏を果たされますよう心からお祈りし、本日の挨拶といたします。